西条の「棚田」の現状を知ろう(後編)

DOLs代表山中裕加とともに西条市役所を訪れ、農水振興課に「棚田」を含めた西条市の農業をとりまく状況を聞いた。後編をお届けする。前編はこちら。

棚田を守るには
現在、棚田を含む農業の生産条件の不利な地域においては、農業の継続に対し国及び地方自治体による支援として中山間地域等直接支払制度がある。集落単位での協定を国と結び、5年間の集落独自の戦略に基づいた活動に支払われる交付金だ。西条市の棚田では黒谷・天川でこの制度が活用され、景観植物を植えるなどしている。対象の耕作面積に比例して支払額が増減するが、むやみに面積を増やすことは現実には人手不足で対応が難しい。住民が集落の未来をしっかり見据えて活用する必要がある。
棚田を保全すること、それにはとにかく耕作をし、農地を荒らさないことである。新たな農業の担い手である新規就農者を増やすために、全国の行政が様々な支援を行なっているが、しかしながら西条市においても農家数は棚田の地域に限らず減少している。ここ数年の西条市の年間新規就農者はおよそ15人で推移、ほぼ定着しているが、それ以上の数の農家が主に高齢化に伴って辞めざるを得ない状況だ。中でも低地と比較して条件不利である中山間地域の減少率が高いのは想像に難くない。
また棚田での耕作を難しくさせる要因に、作物への鳥獣害も挙げられる。棚田の多くが山あいにあることから頻度も多く、低地よりも対策の負担が大きいのだ。鳥獣害を減らすには、里山の人工林の整備など根本的な解決が求められるが、棚田だけでできる対策の全国的な事例では被害を受けにくい薬用作物への転換も見られる。
西条市の取り組み
西条市での独自の取り組みとしては、西条市耕作放棄地再生支援事業が挙げられる。棚田に限った制度ではないが、荒廃した農地を借り受け、農地を再生させる場合、新たな品目の導入のための農地整備費用に補助金が与えられるというものだ。
実際に、西条市内のまちづくりNPO法人うちぬき21プロジェクトはこの制度を活用し、千町での棚田オーナー制度を作り、石垣保全や農業体験などをオーナーらと共に行っている。
西条市役所としても、棚田保全への取り組みは、市が単独で動くよりも、このような市民団体の制度の活用などの連携に期待している。事実、うちぬき21プロジェクトの他にも、NPO法人西条加茂蕎麦くらぶは千町の農地で蕎麦を育て、そば作り体験などのイベントを催したり、最近では京都大学大学院地域資源計画論研究室の学生が千町に住み込んでフィールドワークを行い、調査研究だけでなく地元のお祭りに参加して交流するなどの例もあるのだ。
西条市役所農水振興課田中剛課長は「棚田の必要性は認識しているが、いかに営農と結びつけられるかが今後の検討課題」だと話す
棚田が、西条にある。
折しも株式会社宝島社が発行する「田舎暮らしの本」(2020年2月号)で発表された「2020年版住みたい田舎ベストランキング」において、若者世代が住みたい田舎部門で全国第1位を獲得した西条市。いろいろな事情で移住を希望する者には就農希望者が少なくないという。このような移住者はもちろんのこと、西条市の持つ豊かな自然環境で、さらに農業で暮らしていきたい層にアピールし、棚田を選択してもらうべく、各種情報を整理し発信することが、まずは棚田再生の第一歩ではないだろうか。
棚田が西条にある。その魅力を活かし、暮らしを両立させるチャレンジャーを期待したい。
(関連リンク集)
えひめの棚田
https://www.pref.ehime.jp/h35400/furusato/
中山間地域等直接支払制度
https://www.maff.go.jp/j/nousin/tyusan/siharai_seido/s_about/attach/pdf/index-1.pdf
京都大学大学院地域資源計画論研究室
http://lrp.ges.kyoto-u.ac.jp/index.php/category/blog/event-report/
西条市頑張る農家支援事業
https://www.city.saijo.ehime.jp/soshiki/nosuishinko/ganbarunoka.html
うちぬき21千町棚田オーナー制度
http://www.uchinuki21.jp/wp-content/uploads/2020/03/0c5266102df7cf3e7905b74603222e802.pdf
農林水産省 薬草作物のページ
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/yakuyou/yakuyou.html
皆尾裕
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