かぐや姫、タケノコを掘る。

竹林をよくする会とタケノコ堀り
日本の春の味覚、タケノコ。しかしタケノコを食することで、地域の環境保全に寄与できることはあまり知られていない。
4月半ば。DOLs代表山中裕加の「おうちで竹林整備」事業に同行した。愛媛県西条市内の竹林でタケノコを収穫し、その日のうちに主に都会の顧客にむけて発送するというものだ。
指定された集合場所に車で到着すると、軽トラックの傍に作業着姿の男性が4人。西条市近隣で放置竹林の整備などのボランティア活動を行う、竹林をよくする会(代表:前山竹生)のメンバーだ。
全員で今日の収穫するタケノコのサイズなど作業内容を簡単に確認すると、一行は西条市の西部に位置する、丹原町川根の竹林を目指す。
畑の中を抜けると小山の一角に、地元企業が地主だという竹林が現れた。

到着すると山中はメンバーにテキパキと指示し、各自クワやナタ、土嚢袋を手に慣れた足取りで山へと踏み入れる。
少し見回しただけでも、ゆるやかな斜面に程よく間隔をあけて伸びる竹の足元に、ニョキッと顔を出したタケノコが数多くあるのがわかる。


メンバーらは「先が黄色になっているのが美味しい。」と見極めながら斜面をのぼり、大小適当なサイズのものを次々と掘っていく。
掘ったタケノコの根っこをナタで切り落とすと、「水分を多く含んでいてやわらかい。これは美味しいはずだ。」などと期待が持てる声も聞こえてくる。



ふと見ると、ピンクのリボンで囲われた場所がある。聞くと決められた本数の竹の間伐をして環境の変化をサンプリングするのだという。ついタケノコ堀りに夢中になってしまうが、ここは竹林をよくする会が整備を行う放置竹林のひとつなのだ。
「わたしの推し食材」プロジェクト
山中は今回全国で展開される「わたしの推し食材」プロジェクトに参画し、西条のタケノコを販売することに決めた。
自身都会から田舎に移り住み、自然の豊かさに癒され、特に自身の食を支えてくれる生産者が身近にいる環境のありがたみを感じる中、新型コロナウィルスの感染拡大の影響下にいる友人へその思いを届けるのが目的だ。
また竹林を西条の地域資源のひとつと捉える彼女は、放置竹林整備の現場に身を置くため、自ら竹林をよくする会の門戸を叩いた新参メンバーでもある。
山中は言う。「30本タケノコを収穫すれば、将来30本の竹を伐採しなくてすみます。タケノコを食べるのは、おうちでできる竹林整備なんです。」
メンバーが作業の確認中、「これは姫に聞いてみないとわからん。」などと、山中を「姫」とあだ名しているのを耳にした。後で確認すると、山中自身にはそう呼ばれている自覚は無いようだった。なるほど、企業のOBであったり、退職後の居場所にボランティアを行う者が多い竹林をよくする会においては、ヨソから来た若い女性起業家はめずらしく、そのように映るのだろうな、と思わされる。
そんな山中も悪戦苦闘しながら、自ら10本以上のタケノコを収穫する。
さらには背丈2m以上の若竹を抱え、嬉しそうに山を降りてくる。「これは自家製メンマ用です。」




自然の恵みと日常と
タケノコ掘りは作業開始2時間ほどで予定していた収穫量を超え、作業場に持ち込み発送準備を行うこととなった。
一行は移動を開始。西条が誇る、西日本最高峰石鎚山への登山口を目指す途中で道を下り、兎之山と呼ばれる地域にある竹林をよくする会の拠点に到着した。
建物自体が竹林に隣接している拠点には道具類が整理整頓され、竹細工で作られた椅子なども並ぶ。また長年の活動の表彰状が誇らしげに飾られている。




メンバーはタケノコを重さで仕分けし、手際よくパッキングしていく。アク抜きに使用する米ぬか、とうがらし、山中の自宅の庭で採れた山椒などとともに、今回の事業にメッセージを込めたプリントを同梱する。
タケノコは収穫したそのままの姿を送るため、顧客は自宅でタケノコの皮の多くを捨て、またアク抜きに時間をかけなければならないが、その手間を含めた体験が喜ばれるのだと山中は言う。
折しも、新型コロナウィルスの感染拡大下。自宅で過ごすことを余儀なくされている人たちは、調理に向き合うことで、ある意味では自分自身にじっくり向き合うこととなる。自粛を要請された都会の中で、自然の恵み、ありがたさだけでなく、かつての日常へと思いを馳せることだろう。



かぐや姫の挑戦
山中はタケノコ、メンマの他にも、伐採した竹を細かく粉砕した竹パウダーを活用した商品開発を目論む。竹にいかにクリエイティブを発揮できるか。
長年放置され、景観を悪くし、周辺の自然環境に悪影響を及ぼす竹林。整備の対象である放置竹林が彼女の目には光り輝いて見えるのだ。
そして主に地元の、かつ仕事をリタイアした男性を中心に構成される竹林をよくする会は、自らの活動に光を当て、ともに地域の自然環境を守ることとなる新たなメンバーを「姫」と呼び最大限のサポートを行う。
両者の蜜月関係はさながら翁とかぐや姫のようだ。かぐや姫はいつか月に帰る日がやってくる。その日までにどんなクリエイティブが西条の地から産まれるのだろうか。山中の挑戦ははじまったばかりである。

皆尾裕
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